これらの症状にお心当たりがある場合は、「腫瘍科」の病気の可能性があります。
現在、日本人の死亡原因の第一位は男女共にがん(悪性腫瘍)だと言われていますが、実は犬と猫の亡くなる原因の第一位も、がんなのです。実際に日々診療に当たっていると、残念なことにがんを患う動物に多く出会います。
当院では日本獣医がん学会の腫瘍科認定医として腫瘍科診療に取り組んでいます。
生物の身体を構成する細胞は本来規則正しい働きや分裂をしています。
しかし何かの要因で細胞の遺伝子に傷がつくと、細胞が無制限に増殖を始めてしまうことがあります。これが腫瘍の発生するメカニズムです。
腫瘍には良性のもの、悪性のものがあります。一般的に悪性腫瘍のことを『がん』と呼びます。
悪性腫瘍は身体のどこにでも発生し、発生した部位によって様々な症状を起こします。腸にできれば嘔吐や下痢を、肺にできれば咳や呼吸困難を引き起こします。
また悪性腫瘍が発生しても、初期には症状がないもしくは症状が軽微なことが多いため、ご家族が異変に気がついた時にはすでに進行していることも少なくありません。
悪性腫瘍は転移や再発を起こすのも特徴です。転移とは初めに発生した部位とは違う場所に悪性腫瘍が移動して増殖することです。発見が遅れるとすでに転移が起こっていることも多く、治療が非常に難しくなります。
また悪性腫瘍を治療しても再度同じ腫瘍が発生することがあり、これを再発と言います。治療を行なった後も、再発がないかチェックしなければいけません。
皮膚や乳腺のしこりとして見つかります。初期には無症状のことも多いですが、本人が気にしたり、出血などを伴うこともあります。悪性腫瘍と良性腫瘍や皮膚病を見た目だけで判別するのは難しいですが、大きくなる速度が速いしこりは要注意です。
ご家族が最も気がつきやすいのが体表の腫瘍です。しこりを見つけたらお早めにご相談ください。
肥満細胞腫、軟部組織肉腫、リンパ腫、脂肪腫、乳腺癌など
食べたものの通り道である消化器の腫瘍は日々の食事、排泄に症状が現れます。
口の腫瘍はよだれ、口臭、食べにくそうな様子、出血などが見られます。
食道、胃、腸の腫瘍は嘔吐、下痢、血便、黒色便、食欲低下などを起こします。
歯周病や胃腸炎などでも同様の症状が出ますが、高齢の場合や、症状が強い、長く続く場合には腫瘍の影響を強く疑います。
メラノーマ、扁平上皮癌、線維肉腫、腺癌、リンパ腫、肥満細胞腫など
呼吸に伴う空気の通り道、鼻から喉、気管を通って肺までを呼吸器と呼びます。
鼻腔の腫瘍はくしゃみ、鼻水、鼻出血、進行すると顔の腫れを起こします。
気管や肺の腫瘍は咳や呼吸困難を起こします。
特に肺の腫瘍は初期にはほとんど症状を出さないため、発見時にはすでに大きくなっていることも多い腫瘍です。早期発見には定期的な健康診断が欠かせません。
鼻腔腺癌、リンパ腫、肺腺癌、組織球性肉腫など
血液中の細胞であるリンパ球が臓器やリンパ節で異常増殖するリンパ腫や、白血球が骨髄内で異常増殖する白血病などがあります。
特にリンパ腫は犬、猫では多く見られ、発生部位によって様々な症状を起こします。ご家族が気がつきやすいリンパ腫として、犬で発生の多い全身の体表リンパ節が腫れる多中心型リンパ腫があります。顎の下、首、脇の下、膝の裏などが同時に腫れているのを見つけたらお早めにご相談ください。
リンパ腫、白血病など
尿は腎臓で作られ、尿管を通って膀胱に貯まり、尿道を通っておしっことして出てきます。
泌尿器の腫瘍では血尿、頻尿、排尿痛などの症状が見られます。
似た症状でよく出会うのが膀胱炎ですが、治りが悪い、再発しやすい場合には腫瘍の可能性を考える必要があります。
腎細胞癌、リンパ腫、移行上皮癌など
がんは人間と同様、早期発見、早期治療が非常に重要です。
しかし体調の変化を言葉にできない動物の場合は、症状が出てご家族が気がついた時にはすでに進行してしまっているケースが少なくありません。
動物たちのがんをいち早く見つけるためには定期的な診察や健康診断が必要です。
皮膚や乳腺などの体表のがんは丁寧な視診、触診で、胸やお腹の中のがんは血液検査やレントゲン検査、超音波検査で発見が可能です。
当院では若齢期は年に1度、高齢期は年に2度の健康診断をお勧めしています。
検査で見つかったしこりや臓器の異常に対しては、細い針を刺して細胞を採取(針生検)もしくは、組織の一部を摘出(組織生検)してどのような細胞が増えているかを検査します。原因は炎症なのか、腫瘍なのか、良性か悪性か。
この後の治療方針を決める上で非常に重要な検査です。
判定が難しい細胞の評価や組織の評価は検査センターの病理学専門の先生に依頼し、診断を受ける場合もあります。
がんは発生部位以外の場所に病変を作る『転移』を起こす病気です。
はじめに見つけた病変だけでなく、その他の臓器にがんが転移していないかをレントゲンや超音波検査を用いて検査をします。
高齢の動物ではがん以外にも他の病気を併発していることが多いため、それらを探すためにも血液検査や画像検査は大切です。がんに向き合っていくために、きちんと全身の状態を評価します。
CTやMRIなどの高度な画像診断が必要な場合には画像診断センターや二次診療病院をご紹介するなど、専門施設との連携も大切にしています。
がん治療は外科療法、化学療法(抗がん剤治療)、放射線療法が3本柱と言われています。それらと支持療法を組み合わせて最良な治療を考えます。
いわゆる手術での治療です。病変を切除することでがん細胞を身体から取り除くため、腫瘍の種類やステージによっては根治につながる場合もあります。ただし全身麻酔が必要なことや身体にメスを入れる必要があるため、動物への負担も考えなければいけません。
当院では高度な手術に関しては腫瘍外科専門獣医師を招聘して対応しています。
いわゆる抗がん剤による治療です。分裂が活発な細胞にダメージを与える薬を使って、がん細胞を減らします。全身に病変を作るがん(リンパ腫など)やすでに転移をしているがんが対象なほか、外科療法後の補助治療として活躍します。一方で、正常でも分裂が活発な骨髄、消化管、皮膚にもダメージが加わるため、副作用が出る場合があります。抗がん剤の副作用というと怖いイメージがありますが、予測できる副作用に対しては事前に十分にご説明し、副作用を緩和させるような治療を併用します。
放射線を当てることでがん細胞を局所的に死滅させる治療法です。手術が難しい部位(脳や鼻の中など)にも治療可能なことや、手術と異なり身体の機能や形態を温存できるのがメリットです。放射線治療ができる施設は限られており、当院では実施ができないため、大学病院などをご紹介いたします。
上記の3本柱のような積極的にがんを治す治療ではなく、がんを患う動物たちのサポートケアのような治療です。例えば食欲の低下に対しては、食事内容のご相談、強制給餌やチューブ給餌のご指導、食欲増進剤の投薬や皮下点滴などを行います。
がんに伴う痛みの管理も積極的に行います。様々な鎮痛薬を使い、少しでも動物たちが快適に過ごせるよう工夫をします。
またがんを患う動物と向き合う、ご家族のご不安を取り除くことも心がけています。
どのような治療を選択するかはご家族としっかりと話し合って決定します。
がんの種類や進行具合に応じて科学的根拠に基づいた治療を選択するのも大切ですが、動物の性格や、ご家族の考え方や生活状況などによっても治療方法は変わります。
高度な治療を求めて専門病院をご紹介する場合もあれば、逆に積極的な治療はせずに、ご自宅でゆっくりと過ごす時間を大切にする場合もあります。
このような腫瘍科診療を行うには幅広いがんの知識と経験が必要です。がんの診療に関しては腫瘍科認定医のいる当院に、ぜひご相談ください。
検査費用 | |
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細胞診検査 | 3,300円(税込)〜 |
血液検査(スクリーニング) | 8,800円(税込)〜 |
レントゲン検査 | 5,500円(税込)〜 |
超音波検査 | 6,600円(税込)〜 |
※治療費用は治療方針によって大きく異なります。お見積もりをご希望の方には作成いたします。
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